使うかもしれない部屋より、毎日心地いい場所

家づくりの打ち合わせで、よくこんな言葉を聞きます。

「せっかく建てるなら、後悔したくなくて……」
「一応、これも入れておいたほうがいいですよね?」

その気持ち、とてもよく分かります。家は人生で何度も建てるものではありませんし、「やらなかった後悔」だけは避けたい。だからこそ、要望は自然と足し算になっていきます。けれど、実は——良い間取りほど、“捨てる決断”がされています。

要望を全部叶えた間取りが、なぜ住みにくくなるのか

最初のヒアリングでは、こんな希望が並ぶことが多いです。

・広いリビング

・和室も一応ほしい

・来客用の部屋

・大容量の収納

・将来のための予備室

一つひとつは、どれも間違っていません。問題は、それを全部同時に叶えようとしたときです。限られた敷地・予算の中で要望を詰め込むと、

・動線が遠回りになる

・部屋はあるのに使われない

・どこも「ちょっとずつ狭い」

・家全体のメリハリがなくなる

という状態に陥りがちです。間取りが悪いのではなく、多くの場合は「何を大切にしたいか」が、まだ整理されていないだけなのだと思います。

完璧なおもてなしより、ふだんの心地よさ

家づくりのご相談でよく出てくるのが、「使うかもしれないから」という理由でのご要望です。でも実は、「使うかもしれない」は、暮らしの中ではあまり出番がないことも少なくありません。そんなやりとりがあった、あるご家族との打ち合わせのお話です。

「来客用に、独立した和室を一部屋つくりたいんです」

理由を伺うと、
「年に数回、親戚が泊まりに来るかもしれないので」とのことでした。

とても自然な考え方だと思います。せっかくの新築ですし、きちんとおもてなしできる家にしたい、というお気持ちもよく伝わってきました。ただ、少し視点を変えて、こんな質問をしてみました。

「もしその数回のために、毎日過ごすリビングが少し狭くなってしまうとしたら、どう感じられますか?」

少し考えたあと、奥さまが、

「……それは、ちょっともったいないですね」

そこから間取りを見直し、独立した和室ではなく、リビングとつながる畳コーナーに変更。普段は遊び場やくつろぎの場として使い、来客時だけ客間として活用する形にしました。「完璧な来客対応」を手放したことで、「毎日の暮らしに寄り添う空間」が生まれた一例です。

リビングとゆるやかにつながる畳コーナーのイメージ

捨てる=我慢、ではない

「捨てる」と聞くと、我慢、妥協、諦め……そんなイメージがあるかもしれません。でも、家づくりにおける“捨てる”は少し違います。それは、

・本当に大切なものを残すため

・暮らしをシンプルにするため

・家を“使いこなす”ため

の前向きな選択です。全部入りの家より、「これは我が家らしい」と言える家のほうが、住み始めてからの満足度は高くなります。

設計の打ち合わせで大切にしていること

私たち設計者が間取りを考えるとき、「何を足すか」と同じくらい「何を手放せるか」を一緒に考えます。そのために、よくこんな話をします。

・その部屋は、週に何回使いますか?

・10年後も同じ使い方をしていますか?

・それがなくなったら、困るのは誰ですか?

こうした問いを重ねるうちに、自然と優先順位が見えてきます。そして最後に残るのは、「広さ」や「部屋数」ではなく、どんな時間をこの家で過ごしたいかという答えです。

捨てたからこそ、愛着が生まれる

不思議なことに、あれもこれも詰め込んだ家より、選び抜いた要素だけでつくった家のほうが、住む人は家を大切にします。

「ここは悩んだけど、あえてやめたんだよね」
そんな思い出も含めて、家は“自分たちのもの”になっていくからです。

最後に

間取りを良くする一番の近道は、最新の事例を見ることでも、流行のプランを真似ることでもありません。

「これは本当に必要だろうか?」と立ち止まること。

捨てる勇気は、暮らしを削ることではなく、暮らしを研ぎ澄ますことなのだと思います。これから家づくりを考える方の、そんなヒントになれば嬉しいです。

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